「有機EL」「量子ドット」「マイクロディスプレイ」等々、将来のディスプレイを徹底議論


ディスプレイは、まだまだ進化しています。将来のディスプレイ技術に関して、多くの企業様と個別ディスカッションを行っております。ご興味のある方は弊社までお問い合わせ下さい。

 

<参考> Technology Online 原稿より抜粋

図は、Technology Online 掲載記事を参照下さい。http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/051100059/062200020/

ディスプレイ技術の進化のスピドは衰えていない

業界では一般的に、「ディスプレイ産業は飽和した」、「ディスプレイではもう儲からない」、「この状態を打破するのがOLEDだ」という意見が支配的である。しかし果たしてそうであろうか。Display Week全体を通して筆者が感じたのは、その逆である。

例えば、辛口のコメントになるが、昨年は展示も止め技術発表も止めたSamsungが2年ぶりに戻ってきた基調講演でOLEDに対する思いを力強く語ってくれたのは大変喜ばしい。しかしながら、その中で述べたOLEDの技術課題は、2013年に同社が基調講演で述べた内容とほとんど変わっていなかった。OLEDが抱える課題の難しさを垣間見た思いである。

一方でLCD技術は、今年の発表でも様々な方面で新たな進展を見せていた。例えば、フレキシブル液晶(関連記事http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/051100059/052600003/ )、

超高精細液晶(関連記事 http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/051100059/052700008/ )、

G10でのLTPS(関連記事 http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/051100059/052700010/ 、

関連記事http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/051100059/052700011/ )

などである。更には、後述する量子ドット(QD)を使った広色域な表示の分野でも多くの進展があった。これらの内容からは、ディスプレイがこれまでと変わらないスピードで技術的進化が続いていることを実感させられる。

 

ディスプレイの成長を支えた

ディスプレイのアプリケーションは、これまで「ポケットTV ⇒ Note PC ⇒ Monitor ⇒ 大画面TV ⇒ スマホなどの携帯機器」と大きく広がってきた。現在は、「車載、医療、サイネージ、等」の分野で市場の拡大を目指している。そして今後伸びてくるのが「ウエアラブル、HMD、空中ディスプレイ、等」であろう。今年のSIDでも、HMDを駆使したAR/VRに関するSpecial Topics、あるいはWearable-Flexible Market Conferenceで将来のプリケーションに対するディスカッションにも熱が入っていた。

このディスプレイのアプリケーションの進化を支えてきたのが「ディスプレイの2つの価値」である、と筆者は考えている。「表示性能」と「ユーザビリティー」である。この2つの価値は車の両輪の様に両方が揃って回転することによって、ディスプレイ産業が大きく進化した原動力となってきた(図1)。

そして、今後もこの2つの価値がうまくかみ合っていく事が、ディスプレイの技術と産業を更に成長させることになるだろう。図1の両輪のそれぞれ①~⑤は、これまでに達成されてきた項目であり、現在も更なる改善の努力が続いている。そして、今日現在、業界の各社および開発者が競っているのが、この両輪の⑥と⑦である。

OLEDでは、「ユーザビリティー」としての「フレキシブル」を前面に押し出して、一気に市場の主導権を取ろうとしているのに対して、LCDでは量子ドット(QD)を使って「表示性能」の「色域」で更なる市場の拡大を狙っている。しかし、今後のディスプレイで重要なのは、この両者をバランス良く廻していくことであろう。片輪だけの走行ではまっすぐ前には進めない。

 

 

1 ディスプレイの2つの値、「表示性能」と「ユザビリティ

この両輪が同期して回転することが、ディスプレイを大きく飛躍させる。それぞれ7つある特性の内、現在は赤字で記したところで各社が開発をしのぎ合っている。(SIDを聴講して、筆者が描いた)

  

「OLEDのラッキー7」を大きく花開させるには

東北パイオニアで世界初のOLEDディスプレイを製品化された當摩照夫氏によると、OLEDには数字の7にまつわる10年ごとのエポックメーキングがあるという。これを業界関係者は「OLEDのラッキー7」と呼んで、来年のAppleのOLED製品発表を待ち望んでいる(図2)。

1987年: KodakのDr. TanによるOLEDの発表

1997年: 東北パイオニアによるOLED Displayの世界初の製品化

2007年: SONY によるOLED TV の発売

Samsung がAMOLED を始めて携帯に搭載

2017年: AppleがOLED採用機種を発売?

2 「OLEDのラッキ7」

OLEDディスプレイには、10年ごとにエポックメーキングが訪れる。この間、2012年にはLGがOLED-TVを発売。(元東北パイオニアの當摩照夫氏の資料から引用)

 

Dr. TanによってOLEDが発明されて以来30年の節目である来年2017年にAppleのOLED採用製品が市場に出て、その後にLCDに替わってOLEDがディスプレイの主流になるかどうか、そのカギを握るのが図1のディスプレイの価値としての両輪である、と筆者は考える。今OLEDは、「ユーザビリティー」の中の「フレキシブル」を最大の目標として実用化に向けた開発に突き進んでいる。そして、「フレキシブル」な特性を使ったどんな製品が出て来るのかに業界の注目が集まっている。

一方で、OLEDには未だ課題がある。寿命や焼き付きといった「表示性能」に関する改善努力が必要である。消費電力に関しても、表示コンテンツによってはLCDよりも多くなってしまう。これらの課題を解決するためのデバイス技術や材料の更なる開発が必須であり、「ユーザビリティー」と「表示性能」の両輪のバランスを取ることができれば、OLEDは大きく前に進むことが出来るだろう。

 

第二フェーズに入った量子ドット(QD)

QDを使ったLCDは、OLEDよりも鮮やかな色(広い色域)が出せ、表示性能ではOLEDを凌駕している。Appleが採用すると言われているOLEDパネルの第一供給社と目されるSamsungも、今年1月のLas VegasでのCES展示では、大型パネルではQDを積極的に採用する動きを見せている。同社のCES展示では大画面の曲面QD-LCD一色の状態であったことを思い返せば、同社の戦略が大画面では高画質の表示性能を、モバイル用途では「ユーザビリティー」を重要視していることが理解できる。

QDの特徴である広色域を最大限に活かすべく、2013年にディスプレイ応用が始まって以来、QDメーカ各社がこの分野で競争を繰り広げてきた。一方で、有害物質であるCdの使用がネックになり、なかなか市場への浸透が進まないもどかしさも昨年の会議では感じられていた。

そんな中で開催された今年のSIDでは、セッション数も増加し6つの様々なテーマでの発表が行われ、Sunday Short CourseやMonday Seminarでも講義が行われた。一通りの内容を聴講して筆者が感じたのは、「QDが第二フェーズに入った」という印象である。この3年間、兎に角ディスプレイ応用で市場を拡大しようとQD各社が突き進んできたが、今年は、各社毎に戦略の違いが鮮明になってきた。(図3)

 

 

3 SID2016の展示と講演でQD材料メカ各社がアピルしたポイント

代表的な6社を掲げたが、これ以外にも多くの企業が発表や展示を行った。特に、今年は中国のQDメーカの初登場が目立った。

 

今年のポイントは、①Cd規制への対応、②OLEDを置き換えるQLEDの取り組みの増加、③LCDのカラーフィルター(CF)にQDを使う試みが表に顔を出し始めた。④ディスプレイ以外の用途を目指す企業が増えてきた、⑤中国企業数社が初登場、⑥S/Cの戦略的なアライアンスが進行している、などである。この3年間の動向をフォローしてきた筆者の目には、これまでにも増して大変ダイナミックな動きに映った。

①に関しての対応は、各社によって3つの方向に分かれてきた。一つは、従来から目指してきたCd free系の材料開発の加速である。Nanocoが継続的に開発を続ける中、Quantum Materialsが来年の量産に名乗りを上げた。二つ目の方向は、Cd freeの開発は進めているものの、やはりCd系の方が性能が良く、結果的にはCd系材料を使った方が省エネになり総合的にみて環境に良いという主張である。On Edge方式でQDの使用量が少ないQD Visionはこの方式で積極的に中国市場の大画面TV市場を開拓している。三つ目は、Cdを使いながらも100PPM以下というRoHSの規制値をクリアする使い方である。今回、Nanosysは、”Hyperion”と名付けたCd系とCd free系の材料をうまく混ぜ、この規制値をクリアした。性能的にはCd系100%のものには若干劣るが、それでも十分な広色域を得られるという。

②のQLEDに対しては、ここ1年急速にOLEDへのシフトが言われ始めた中で、OLEDの先を行く技術として、QDメーカ各社が力を入れ始めている。先頭を走るのが、NanoPhotonicaである。NanosysやQD Visionも以前から開発は行っている。更には、Quantum MaterialsもBlue のQD材料開発に名乗りを上げた。QLED用のQD材料の発光効率は、2・3年の遅れでOLED用材料の後を追って改善が進んでいる。ディスプレイ業界の各社が現在一生懸命開発を進めているFlexible OLEDが実用化されれば、OLEDよりも印刷法に適しているQDで一気に置き換えられるという、強気の発言も聞こえていた。

③のCFへの適用は、以前から囁かれてはいたが、今回MerckがSymposiumでの技術発表を行ったのと、NanosysのCEOもBusiness Conferenceでこの内容に触れた。また、④のディスプレイ以外の応用に関しても、NanocoやQuantum Materialsが以前にも増して積極的なアピールをしている。

⑤の中国のQD関連企業では、今回始めて講演や展示があった。Symposiumでの3件の講演とMonday SeminarでのTutorial講演、更にはOn Chip QDを実現したとする、天津のメーカの出展である。QD分野でも中国勢の急速な台頭を目の当たりにした。また、⑥のアライアンスでもQuantum Materialsは、中国でJVを立ち上げて製造から市場参入を進めようとしている。 

 

SIDでの真の破壊的技術

冒頭のタイトルに掲げたOLEDかLCDかという分岐点以外にもSIDでは新たな方向も出てきている。その一つが、今回もホットな話題であった「Augmented and Virtual Reality」である。Special Topicsとして取り上げられている論文数も他に比べて多く、そこに登場するハードウエアはHMDやスマートグラスを始め様々な物があり、そのコアとなるデバイスにどのような技術が使われるのか未だ判らないが、現在の直視型のディスプレイと肩を並べる市場になるかもしれないという予感は充分に感じさせられた。

ここに使われるかどうかは判らないが、やはりAppleが開発に力を注いでいると噂されるマイクロLEDがある。昨年のSIDでも「隠れた破壊的技術」として紹介されたものである(図4)。このマイクロLEDに関して、今年もいくつかのSymposium講演とMonday Seminarがあり、Q&AではAppleが採用しているとされる技術についての質問も飛び交い、大変エキサイティングであった。既に大きな産業になって全体像が見えている直視型ディスプレイに比べて、将来のディスプレイの新たな方向を期待させられる、最もSIDらしい内容であったと感じている。今年の内容に関しては追々整理してレポートしていければと思う。

 

 

4 破的革新技術となるマイクロLED

「隠れた破壊的技術」として昨年のSID2015で紹介された文献から引用し、筆者が昨年まとめた資料。今年も、継続的な内容の講演がいくつかあった。

 

ディスプレイはまだまだ高みを目指す

冒頭で述べた「今、ディスプレイの技術と産業は分岐点に立っている」と「ディスプレイはまだまだ進化の途上にある」の2つの思いを図5に描いてみた。文中で述べてきたように、ディスプレイ業界は今、これまでのLCD一人勝ちの状況からOLEDへのシフトという分岐点にいる。Flexibleという「ユーザビリティー」を手に入れたOLEDがLCDを逆転できるかどうか。一方で、LCDの

進化のスピードもまだ衰えていない。今年のSIDでも多くの新しい可能性を見いだすことが出来た。更には、「破壊的技術」と期待される技術も出てきている。色々な技術が競い合い融合して、より高みを目指して進んでいるのがマンマシーンインターフェースとして欠かせないディスプレイであろう。

この絵を描きながら感じたのは、「これまでLEDがディスプレイの進化のカギを握り、今後も握っていく」という事実である。昨年2015年12月のIDW国際会議で名古屋大学の天野教授のSpecial Addressを聞いたときに感じたLEDとディスプレイが融合する世界を今一度思い返している。

 

 

図5 ディスプレイの現在と将来

今年のDisplay Weekで様々な分野の講演を一通り聴いて、各技術が狙うポジション(ディスプレイの価値)を筆者なりの印象で描いた。

 

一方で、LCDを軸としたビジネスは確かに飽和感がある。それは、ひとえにビジネスモデルのせいであろう。技術拡散が速く、後続企業が量とコストで圧倒する産業構造である限りやむを得ない。コモディティ化を目指したビジネスモデルとアジアの製造国が競い合う産業構造が故の結果である。ここから抜け出す為には、時代の流れの変化に便乗してビジネスモデルを変化させることが必要である。それを狙っているのが、現在のOLED化の方向を先頭で引っぱる韓国2社である。そのモデルチェンジが成功するかどうかは、ひとえに技術のシフトが成功するかどうかにかかっている。そして、その技術のシフトを成功させるためには、「ユーザビリティー」と共に「表示性能」も高めて行く事が欠かせない。